始まりの日


こいつに勝てる日が、本当に来るんだろうか?



始まりの日



「忍ーー」
「なんだ?」
「もういいじゃん」
「ダメだ」
「えーーー!」
「えーーー、じゃない。早くしろ」
「もう疲れた」
「始まって、まだ5分も経ってないだろうが」
「じゃあさあ、全部終ったらご褒美くれる?」
「…なんでお前の掃除に、俺が褒美をやらないといけないんだ?」
「じゃあ、もうしない」
「お前…」
「だって俺、掃除が一番嫌いだもんよ!」
「そんな事、威張るな」
今日は寮の週末掃除の日。
いつも整理整頓を心掛けている忍は、あらかた終了しているが、日頃整理整頓を心掛けていない光流は、自分の持ち場。いわゆる光流一人のスペース、机の上やらその引き出しやらベットやらタンスやらと格闘をしていた。というかしていなかった。
「あとで蓮川に怒られるぞ」
「それもやる気をそぐんだよな」
蓮川に怒られても、別に怖くも何ともない。
何よりもあしらう事に慣れ過ぎている。というかそれについては、第一認者の光流であった。
「忍くんてばーーvv」
「手伝わないぞ」
「わー。つめてーー」
「無視。無視」
「しのぶーーー」
「うるさい」
「忍くんてばーーー」
「やかましい」
「手塚忍くんーたらーー!!」
「殺すぞ」
「じゃあやっぱりご褒美ーー!!」
光流のしつこさに、忍はため息がもれる。
「…なにが望みだ?」
忍のこの一言に、光流はにやりと口端を歪めた。
嫌な予感が忍を襲う。
一瞬にして言わなければ良かったと後悔する。
「じゃあ…」
「……」
光流の言い出す事は普段から、忍には読み切れない事が多い。
『今度はどんな無理難題だ』と忍は光流が口を開くのをじっと見つめてしまう。

「ーー俺の事好きになって」


「………はっ?」

あまりの予想外の答えに、一瞬返答が遅れてしまった。
その様子をいつものなにくわぬ顔で、光流は続けた。
「だから、俺の事好きになって下さい」
「お前、何言って…」

「よーし!!じゃあやるぞーー!!!!」
忍の返答も待たずに、こん限りの気合いを入れまくる光流。
すっかり置いてけぼりの忍がここにいる。
「光流」
「まずは机から!!」
「おい…」
「何?」
「いや…だから」
「うん。俺、忍の事好きなんだ」
「…光流」
「だから俺の事好きになって、俺だけの人になって下さい」


光流の眩しいくらいの笑顔が、忍に向けられた。
その笑顔を見つめながら『やっぱりこいつにはだけは勝てないな』と心の中で忍は思った。



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